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廃墟の落書き

怖いコピペとして、以下のものがある。 俺が小学生の頃の話。 俺が住んでいた町には廃墟があった。 2階建てのアパートみたいな建物で、壁がコンクリートで出来ていた。 ガラスがほとんど割れていて、壁も汚れてボロボロだったから、 地元の人間でも、あまりこの場所に近づくことはなかったらしい。 ある日、俺は友人と肝試しをすることになって、この廃墟に行くことにした。 まだ昼ぐらいだったから、建物の2階まで上がって建物を探索した。 そしたら並んでいる扉のひとつに、文字が書いてあるものがあった。 友人と近づいて確認してみると、扉の前に「わたしは このさきの へやに いるよ」と書いてあった。 俺と友人は扉を開けて中に入り、先に進むことにした。 歩いていくと分かれ道に突き当たって、壁に「わたしは ひだりに いるよ」と書いてあった。 少し怖かったけれど、俺と友人はそのままひだりに進むことした。 すると両側に部屋があるところに突き当たって、壁に「あたまは ひだり からだは みぎ」 と書いてあった。 友人はこれを見た瞬間に、半狂乱になって逃げ出した。 でも俺はその場所にとどまって、勇気を出してみぎの部屋に行くことにした。 部屋に入り進んでいくと、突き当たりの壁に「わたしの からだは このしたにいるよ」 と書いてあった。 下を見ると、「ひだりの へやから わたしの あたまが きてるよ うしろ みないでね」。 俺は急いで、その部屋の窓から飛び降りて逃げた。 それからはもう、その場所には近づいていない。 自分はこのコピペを、単に廃墟に怖い落書きがあったという話だと思っていた。 しかし検索してみると、このコピペを「意味が分かると怖い話」(以下「意味怖」)として紹介しているページが多くある。 その「意味」とは、「最後の『ひだりの へやから わたしの あたまが きてるよ うしろ みないでね』は落書きではなく声である(この文のみ「書いてあった」と書かれていないため)」というものだ。 というわけで今回は、このコピペの起源と、本当に「意味怖」なのかを調べてみた。

◯◯は◯◯ない(小説・漫画編)

最近、「○○は○○ない」というタイトルが増えている気がする。

自分もこの手のタイトルは好きだが、誰が最初に考えたものなのかが気になる。

というわけで今回は、「○○は○○ない」の中でも、小説・漫画(エッセイ漫画は除く)を調べてみた。


分類ルールは下記の通りである。

  • 書籍タイトルと短編タイトルを調査した。

  • 書籍化されていないものは数に含めない。

  • 「○○ない」に入るのは動詞のみとする。

  • サブタイトルの「○○は○○ない」も含めることとする。また、シリーズタイトルが「○○は○○ない」の場合は、第一巻のみカウント。

  • 「○○は○○ない」の後に句点や感嘆符、促音や「~の巻」がついているときはカウントしたが、「~だ」や「~わ」がつくときは、数に入れていない。

  • そして、「~なければならない」、「~にすぎない」、「~なければいけない」「~かもしれない」に関しては、否定形のニュアンスが失われているとみなし、カウントしなかった。

  • 調査したのは、国会図書館やメディア芸術データベースである。

  • ノベライズ、コミカライズのタイトルはカウントしなかったが、書籍化の際に題名に「○○は○○ない」を付け加えた場合は数に入れている。

  • 人名は、記事の読みやすさを優先するために、敬称略とする。


作品数

その結果、最も古い「○○は○○ない」は、1935年の短編『私は泣かない』(林芙美子)であることが分かった。

なお、書籍タイトルとしては、『風は知らない』(原題"The Wind Cannot Read"、著:リチャード・メーソン、訳:田代三千稔・佐々木峻、1949年)が最も早かった。


また、総数は1420冊で、推移は次のようになっていた。
 
「○○は○○ない」は1980年ごろから増え始め、2010年ごろから急増しているということが分かる。

近年になって増えているという実感は正しかったようだ。

タイトルの傾向

では次に、どんなタイトルが多いのかを調べてみた。


最初は、「○○は」の部分を調べてみた。


分類ルールは下記の通り。

  • この時、表記ゆれとみられるものは同じものとしてカウントした。

  • また、1つの題に2つの「○○は」または「○○ない」が入っている場合は、それぞれ0.5としてカウント。

  • なお、「~たちは」や「~だけは」は、「○○は」と同じものとして数えた。

下の表は、そのTOP10を示したものだ。


最も多いのは一人称で、その中でも多いのは僕系(66)、次に多いのが私系(43)、最も少ないのが俺系(17)だった。

次に多いのは登場人物の名前・あだ名であるが、近年になって急増している(後述)。

3番目に多いのが二人称で、その中で一番多いのが君系(17)、次に多いのがあなた系(12)、で、お前系が最も少なかった(3)。


一人称と二人称の傾向から考えると、優しい口調の男性がしゃべっているようなタイトルが多いようだ。

また、「恋」「愛」「さよなら」「涙」など、感傷的な言葉が多く使われているように感じた。

一方で、「夜」「死者」など、怖い印象の言葉も入っていた。



次に、「○○ない」の部分を調べた。

先ほどと同様、表記ゆれは同じものとみなした。

下の表は、そのTOP20を示したものだ。


最も多いのは「いらない」だった。

また、「眠らない」と「眠れない」という、眠り関係の言葉がそろって上位にランクインしている。

不安で眠ることもできない、という意味合いで使われているようだ。

「しない」や「つかない」、「できない」に関しては、他の名詞と組み合わさって初めて伝わるようなものが多かったので、あまり考察には値しないだろう。

「我慢できない」が多かったのは、『女はそれを我慢できない』(1956年の映画)が原因かもしれない。

なお、「見ない」のうち、7つは「青春ブタ野郎シリーズ」(鴨志田一、2014~)のものなので、多いと言っていいのか微妙なところだ。


作者

「○○は○○ない」というタイトルの本をたくさん書いている人を10位まであげてみた。



1位の喜多嶋隆は、1984年の『ポニー・テールは、ふり向かない』で有名な作家である。

こういうタイトルが好きなのかもしれない。

鴨志田一と織守きょうやの上位入りは、著作の題名が「○○は○○ない」で統一されていたためのものである。

2位の赤川次郎は、著作が多いためにランクインしたと思われる。

また、小室みつ子と綾里けいし、および丸茂ジュンは女性で、榎田尤利、水戸泉、南原兼、火崎勇、峰桐皇はボーイズラブ(以下BL)の作家である。

上位こそ男性だが、それ以下は女性向けないし女性作家が多いというのは、面白い。


ジャンル

どんな作品で「○○は○○ない」が使われているのかが気になったので、調べてみることにした。

1000冊以上も読むのは無理なので、ちょっとずるいが、Amazonで読めるあらすじや、感想サイトなどを参考にした。


その結果、「○○は○○ない」というタイトルは、ミステリ、BL、および恋愛で多く使われていることが分かった。

作家ランキングで、ミステリ作家の赤川次郎や、BL作家が上位にきたのも、むべなるかなといったところだ。


次に、ミステリ、BL、および恋愛それぞれが、どのように増えてきたかを調べてみた。



この表から、「○○は○○ない」の歴史はミステリから始まり、次に恋愛、その後BLでも流行しだしたということが分かる。


男性向けと女性向け

自分は詳しくないのだが、最近男性向けでそういう題名が増えているらしい(ライトノベルのタイトルの「長文」化について - WINDBIRD)。

というわけで、男性向け、および比較として女性向けも集計した。

なお、女性向けか男性向けかは、
  • 一般社団法人 日本雑誌広告協会の「■雑誌ジャンルおよびカテゴリ区分一覧」

  • Amazonによるレーベルの分類

  • 公式サイトでの記載
を判断基準とした。

 
このグラフから、もともと女性向けで「○○は○○ない」が流行していたことが分かる。

上記の記事が書かれた2011年ごろは、一時的に男性向けが女性向けに追いついた時期だったようだ。

しかし、2016年以降、再び女性向けが盛り返したらしい。


小説と漫画

これらを調べているうち、小説と漫画で流行が違うことが分かったので、そちらもグラフにしてみた。

 

流行った順としては、女性向け漫画→女性向け小説→男性向け小説→男性向け漫画のようだ。

小説と漫画、同時に流行が来るのかと思ったが、そうでもなかった。


歴史

各年代ごとの変化を、細かく論じてみる。

1960年代

この手のタイトルは、もとはミステリ小説でよく使われていた題名だった。

推理小説で最も古かったのは、短編『貴様を二度は縊れない』(原題"They Can Only Hang You Once"、ダシエル・ハメット、1957)だった。


最初のピークのある1960年代には、
短編『殺しに鵜のまねは通用しない』(原題"Smart-Aleck Kill"、著:レイモンド・チャンドラー、訳:田中潤司、1960)や、
『カラスは数をかぞえない』(原題"Crows can't count"、著:A.A.フェア、訳:清水俊二、1962)など、
「○○は○○ない」という題の海外ミステリが、多く発表されている。

また日本人の推理作家も、『朝はもう来ない』(新章文子、1961)『肌は死なない』(黒岩重吾、1962)を発表している。


1980年代

この時期になると、『僕は天使に嘘をつかない』(松苗あけみ、1982)や、『B・G・Mはいらない』(前原滋子、1983)など、女性向け漫画で「○○は○○ない」が多く見られるようになる。

また、それから少し遅れて、「○○は○○ない」がタイトルの女性向け小説が多く出版された。

例として挙げるなら、『ウサギは歌を歌わない』(小室みつ子、1985)や、『バースデイ・イブは眠れない』(小野不由美、1988)などがある。

まあ80年代は少女小説ブームだったので、女性向け小説で「○○は○○ない」が多くあっても、そんなにおかしなことではないかもしれないが。


実は、1980年以前にも、「○○は○○ない」という女性向け作品はある。

漫画作品としては、『蝶はここには住めない!』(わたなべまさこ、1969)や、『故国の歌は聞こえない』(河あきら、1977)があげられる。

そもそも、確認できた中で最古の「○○は○○ない」(『私は泣かない』(1935年))は少女小説であった。

もしかしたら書籍化された数が少ないだけで、戦前から女性向けでは脈々と、「○○は○○ない」が受け継がれてきたのかもしれない。


1990年代

このころになると、ハーレクイン社の出すロマンス小説のタイトルが、「○○は○○ない」の形式をとるようになる。

例として、『人形は眠らない』(原題"Hand in Glove"、アン・スチュアート 、1990)や、『瞳は傷つかない』(原題"Thunder on the Reef"、サラ・クレイヴン、1996)などが挙げられる。

流行った理由は不明だが、もしかしたら80年代に少女漫画・少女小説を読んでいた層が、大人になってハーレクインを読むようになったからかもしれない。

2000年代

このころには、BL小説で「○○は○○ない」が多くみられるようになる。

この時期のBL小説としては、『グッドラックはいらない!』(火崎勇、2001)『交渉人は黙らない』(榎田尤利、2007)などが挙げられる。

おそらくそれまでの女性向けからの流れで、「○○は○○ない」という題名を使うようになったのだろう。

2000年代がBL小説ブームだったこともあったと思われる。

しかし、そもそもBL小説で最初に「○○は○○ない」が使われたのは、1962年の森茉莉の短編『日曜日には僕は行かない』である。

このタイトルは昔から、BL界隈で使われていたのかもしれない。



2010年代

2010年ごろになると、「○○は○○ない」という男性向け小説が急増する。

それまでにも『ブギーポップは笑わない』(上遠野浩平、1998)や短編『クライアントは手を汚さない』(火浦功、1987)という題名はあったものの、そこまで数が多くはなかったのだ。

この時期の男性向け小説と言えば、『機巧少女(マシンドール)は傷つかない』(海冬レイジ、2009-2017)『だから僕は、Hができない。』(橘ぱん、2010-2013)などだ。

これらの作品のヒットが、ほかの男性向けにも影響したのかもしれない。


それにやや遅れて、BL漫画でも「○○は○○ない」が現れる。

『囀る鳥は羽ばたかない』(ヨネダコウ、2013-)や、『啼かない鴉は嗤わない』(新井サチ、2014)などが有名なようだ。

男性向け漫画でも増加が見られ、『お前はまだグンマを知らない』(井田ヒロト、2014-)や、『ぼくたちは勉強ができない』(筒井大志、2017-)などがある。


まとめ

年代出来事主な作品
1935「○○は○○ない」が出現『私は泣かない』
1960ミステリで流行『カラスは数をかぞえない』
1980女性向け漫画・小説で使われるようになる
また、作品数が増え始める
『B・G・Mはいらない』
ポニー・テールは、ふり向かない』
1990ハーレクインのロマンス小説で使われるようになる『人形は眠らない』
『瞳は傷つかない』
2000BL小説で使われるようになる『交渉人は黙らない』
2010男性向け小説で、よく使われるようになる
やや遅れて、BL漫画や男性向け漫画でも増加し始める
『機巧少女(マシンドール)は傷つかない』
『囀る鳥は羽ばたかない』
『お前はまだグンマを知らない』

人名タイトル

「人名は○○しない」がタイトルになっている作品の年次推移は、以下の通り。


2015年以降、急激に増えている。

この時期に何があったのか調べてみたが、よくわからなかった。

岸辺露伴は動かない

さて、「○○は」が人名になっているものとして有名なのは、『岸辺露伴は動かない』(荒木飛呂彦)だろう。

この漫画は、「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの外伝的作品である。

人名タイトルの中でも、日本人風のフルネームを使ったのはこの作品が初めてのようだ。
(初出:『死刑執行中脱獄進行中 荒木飛呂彦短編集』(1999)収録「エピソード16:懺悔室」)

この連作短編の一つ「六壁坂」は、ジャンプスクエア2008年1月号に掲載された。

日本人風フルネームの作品が多く出版され始めたのはこれ以降なので、影響は確実にあったとみられる。
(鈴木大輔(2009)『藤宮十貴子は懐かない』入間人間(2009)『探偵・花咲太郎は閃かない』など)

とはいえ、2008年以前にも日本人風フルネームの作品はある。

2005年の『飛鳥井全死は間違えない』(元長柾木)だ。

だが、著者の元長柾木は、2007年にユリイカ増刊号にて、「『ジョジョ』 だってインフレする!」という記事を書いている。

そこからすると、『飛鳥井全死』を書くにあたって「ジョジョ」の外伝である『岸辺露伴』を意識した可能性もある。

というわけで、日本人風フルネームの「○○は○○ない」の元祖は、『岸辺露伴は動かない』ということでいいと思う。


まとめ

タイトル

  • 「○○は」には、一人称や人名が入ることが多い。なお一人称で最も多いのは、「僕」。

  • 人名タイトルは2015年ごろから急増。日本人風フルネームの起源は『岸辺露伴は動かない』と思われる。

  • 「○○ない」で一番多いのは「いらない」。また、「眠らない」「眠れない」も多い。

作者

  • 『ポニーテールは、ふり向かない』の喜多嶋隆が一位。

  • 女性作家やBL作家が多い。

ジャンル

  • ミステリ、BL、恋愛が多い。なお、ミステリ→恋愛→BLの順に流行した。

流行

  • 女性向け漫画→女性向け小説(少女小説→ハーレクイン→BL小説)→男性向け小説→男性向け漫画・BL漫画

  • 女性向けでは80年代以前から流行っていたのかもしれない。





レーベルの分類
掲載雑誌・サイトの分類

参考

国立国会図書館<http://www.ndl.go.jp/index.html>

メディア芸術データベース<https://mediaarts-db.bunka.go.jp/>

Amazon<https://www.amazon.co.jp/>

一般社団法人 日本雑誌広告協会-「雑誌ジャンル・カテゴリ区分」最新表<http://www.zakko.or.jp/subwin/genre.html>

ラノベの杜<http://ranobe-mori.net/>

有理の棚<http://alisato.web2.jp/index.htm>

翻訳作品集成(Japanese Translation List) ameqlist<http://ameqlist.com/index.html>

Street Storyteller in Strategic Stratosphere<http://motonaga.world.coocan.jp>

女性向けライトノベルに異変!?少女たちがハマる奥深き世界の最先端 | ダ・ヴィンチニュース<https://ddnavi.com/news/183503/a/>

ボーイズラブ市場の実態と展望 | Xビジネス - クールジャパンなマーケティングポータル<https://xbusiness.jp/slash/marketing>

ジョジョ「岸辺露伴は動かない」新作、次号ジャンプに降臨 | マイナビニュース<https://news.mynavi.jp/article/20121001-a135/>



追記
「~は~ない」を選ぶときの基準を追加(2017/3/10)
年表を書き直し(2017/4/28)
短編を加えて書き直し(2017/5/4)
タイトルを「○○は○○ない」に変更。
また、2017年分の追加、およびグラフの差し替え・変更など、大幅に変更。
読みやすくなった……と思う。(2018/5/4)
リンク追加、およびURL修正。(2018/5/17)
誤字等修正(2018/9/10)

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